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ボクシング元世界王者・薬師寺保栄氏、傷害の疑いで逮捕 “普通の人”より罪は重くなる?
2025年01月28日 11時39分
#薬師寺保栄

ボクシング元世界チャンピオンの薬師寺保栄氏が、知人女性に怪我をさせたとして傷害の疑いで逮捕された、との報道がありました。

「元世界チャンピオンである」という事情は法的にどのように評価されるのでしょうか。簡単に解説します。

ボクシング元世界チャンピオンの薬師寺保栄氏が、知人女性に怪我をさせたとして傷害の疑いで逮捕された、との報道がありました。

「元世界チャンピオンである」という事情は法的にどのように評価されるのでしょうか。簡単に解説します。

●傷害罪と暴行罪は何が違う?

傷害罪(刑法204条)と暴行罪(同法208条)は、一般の方にとって区別があいまいな犯罪だと思います。

刑法208条は、「暴行を加えた者が人を『傷害するに至らなかったとき』は、2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料に処する」と規定しています。

つまり、暴行して、傷害の結果が発生しなかった場合が暴行罪(208条)で、傷害の結果が発生した場合には傷害罪(204条)となります。(結果的加重犯(「けっかてきかじゅうはん」あるいは「けっかてきかちょうはん」)といいます)

細かい話をすれば、傷害罪には、暴行罪の結果的加重犯としての傷害罪のほか、故意犯としての類型もあるのですが、本件では関係ないので説明は割愛します。

今回のケースでは、物干し竿で被害者を殴るという暴行により、被害者が怪我をした(=傷害)ということで、傷害罪の適用が問題となっています。

●傷害罪の量刑の決まり方

傷害罪は、「15年以下の懲役又は50万円以下の罰金」(刑法204条)と、法定刑の幅が広い犯罪です。

具体的に懲役何年、あるいは罰金となるのかは、動機、犯行態様、傷害の程度や、前科の有無や数などの事情で決まります。

●犯行態様が「悪質」と評価される可能性がある

結論から言うと、薬師寺氏が傷害事件を起こした場合に、一般の人が傷害事件を起こすよりも、先に挙げた事情のうち、「犯行態様」について、色々な意味で悪質と評価される可能性があります。

まず、単純に一般の人よりも攻撃力が高く、危険であると評価される可能性があります。

攻撃の危険性の判断は、武器の使用の有無、武器の性質や使い方、攻撃した場所や回数のほか、年齢や体格、運動経験の有無など様々な事情によりなされます。その中の1つに、ボクシングの元世界チャンピオンであるという事情も含まれるといえます。

薬師寺氏はプロボクシングの元世界チャンピオンですから、体力も一般の人間よりはるかに優れています。

この観点からは、一般人の暴行に比べて、薬師寺氏の暴行は危険性が高いと評価され、「犯行態様」が悪質と判断される可能性が高いと思われます。

なお、薬師寺氏は「物干し竿」で被害者を殴っているため、「拳を使っていないから、攻撃力は(物干し竿を使う)普通の人と変わらないのでは?」とも思えます。

この点についての評価は裁判所次第ですので、私見になりますが、世界チャンピオンになれたほどの体力を持つ人間が、物干し竿という武器を使っているのであって、拳を使わなくても一般人よりずっと攻撃力が高いと考える方が自然ではないかと思います。

次に、薬師寺氏は、自らの強さを十分理解しているはずですし、むやみに自分の力を使わないことが特に求められる存在だと考えられます。

危険性の判断とは別に、そういう人が犯行に及んだことからも、犯行態様が悪質であると判断される可能性が高いと考えられます。

さらに、元ボクシング世界チャンピオンからの暴行は、被害者側からみて非常に恐怖を覚えるとも考えられます。その点からも、犯行態様が一般人による場合と比べて悪質であると判断される可能性が高いと思われます。

●危険性の判断要素は「元世界チャンピオン」以外にもたくさんある

また、上に挙げたように、危険性の考慮要素はたくさんあります。物干し竿で顔面に暴行を加えたという事実は、それだけでもかなり危険性が高いと評価されるでしょう。 反面、年齢が50歳半ばであることなど、危険性をマイナスに評価される事情もあることには注意が必要です。

●今後どうなるのか

薬師寺氏は逮捕された段階とのことです。これから10日間〜20日間の勾留を経て、起訴されるかされないかが決まります。

傷害罪は、被害者と示談したかどうかが非常に大きいため、まずは示談をして勾留から解放されること、そして不起訴となることを目指すと考えられます。

もちろん、示談したから必ず勾留から解放されるとか、不起訴になるというわけではありません。怪我の程度など様々な事情から判断されますが、不起訴の可能性は高まります。

「示談」する意味については、最近のニュースで何かと話題になっていますが、刑事事件の中では非常に大きな意味を持っています。 (弁護士ドットコムニュース編集部・弁護士/小倉匡洋)

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